美咲さん(28歳):SNSの「いいね」が壊した関係
美咲さんは、付き合って2年になる彼氏との関係に深い悩みを抱えていました。
「彼のインスタグラムには、私の写真がほとんど投稿されていなかったんです。一方で、友達との飲み会の写真はたくさんアップされている。その中に女友達も何人かいて...私はそれをすごく気にしていました」
美咲さんは、彼氏のSNSの投稿内容や「いいね」を毎日チェックするようになりました。女性からのコメントを見つけると、その女性のプロフィールを調べ、「彼氏にとって、この子の方が魅力的なのかも」と思い悩む日々。
「ある日、私は爆発しました。『なぜ私の写真を投稿しないの?私のことを隠したいの?』と。彼は呆れた顔で『SNSはそんなに大事じゃない。現実の私たちが大事なんだ』と言いましたが、私には納得できませんでした」
美咲さんは彼氏に「週に一回は私の写真か、二人の写真を投稿してほしい」と要求。最初は渋々応じていた彼氏も、徐々に疲れた様子を見せるようになりました。
「最後は『SNSの投稿より、目の前の人間関係を大事にしてほしい。君のような人とは疲れる』と言われ、別れることに...。今思えば、SNSでの『見える承認』にこだわりすぎて、実際の愛情表現を見落としていたんだと思います」
美咲さんの場合、SNSという「公開の場」での承認にこだわることで、二人の間の私的な愛情表現の価値を見失ってしまいました。「みんなに見える形で愛されたい」という欲求が、実際の関係を壊してしまった例です。
理沙さん(35歳):「必要とされたい」から始まった不倫
理沙さんは結婚10年目、6歳の息子を持つ主婦でした。夫は仕事熱心で家族思いでしたが、「当たり前」の日常に理沙さんは次第に物足りなさを感じるようになりました。
「夫は悪い人ではありません。でも『ありがとう』や『助かるよ』といった言葉が少なく、私の努力や存在が『当然』になっていました。料理を頑張っても『いつもの味だね』とか。新しい服を着ても気づかない。私の存在が『空気』になっていく感じがして...」
そんな時、理沙さんはパート先で年上の男性と知り合います。彼は理沙さんの意見に熱心に耳を傾け、小さな変化にも気づき、「理沙さんみたいな人は貴重だよ」と言ってくれました。
「誰かに『必要とされている』と感じるのは久しぶりでした。家では『お母さん』『妻』というだけの存在。でも彼の前では『理沙』という一人の女性として見てもらえる。その感覚に、どんどん惹かれていきました」
二人の関係は次第に深まり、不倫関係に発展。理沙さんは罪悪感を抱えながらも、「彼だけが私を本当に理解してくれる」と思い込んでいました。
しかし半年後、夫にメールを見られたことで関係が発覚。夫は激怒しながらも「やり直したい」と言いましたが、理沙さんは「私を必要としてくれる人じゃないとダメなんです」と家を出ました。
「離婚して一人になった今、振り返ると恐ろしくなります。私は『認められたい』『必要とされたい』という欲求のために、家族を壊してしまった。彼も結局は『新鮮な関係』に惹かれていただけで、私という人間に本当の価値を見出していたわけではなかったんです」
理沙さんの場合、長期的な関係の中で「当たり前」になってしまった自分の存在価値に不安を感じ、新しい関係の中で「特別」を求めた例です。しかし、その「特別感」は一時的なものにすぎませんでした。
私自身の経験:「完璧な彼女」を演じた代償
個人的な話になりますが、私も承認欲求の強さに苦しんだ一人です。大学時代、当時の彼氏は人気者で、「彼の彼女として認められるためには、完璧でなければならない」と思い込んでいました。
常に見た目に気を配り、彼の好みの服を着て、彼の好きな料理を覚え、彼の友人にも好かれるよう努力する—私は「理想の彼女」を演じることに必死でした。
「彼が友達と遊ぶ約束をすると、『私はいらない?』と聞いてしまう。彼が他の女性と話すと、その後で『私のどこがダメなの?』と問い詰める。私がそういう態度を取るたびに、彼は少しずつ距離を置くようになり、私はさらに不安になる...」
この悪循環は、私の精神状態を徐々に蝕んでいきました。常に「愛される価値がある自分」でいようとする緊張感は、やがて摂食障害という形で表れました。「もっと痩せれば、もっと愛される」という歪んだ思い込みが、私の健康を奪ったのです。
関係が終わった後、心理カウンセリングを受ける中で気づいたのは、私が「自分自身」ではなく「彼に愛される自分」を生きていたということ。自分の感情や欲求を無視して「相手に合わせる自分」を演じることで、逆に相手との本当の繋がりを失っていたのです。
この経験から、「誰かに愛されるために自分を変える」のではなく、「自分自身を大切にできる人に愛される」ことの大切さを学びました。
承認欲求と上手く付き合うために:パートナーと本人へのアドバイス
承認欲求の強さに悩む女性や、そのパートナーにとって、この問題とどう向き合えばいいのでしょうか?いくつかの視点からアドバイスを考えてみましょう。
パートナーができること:理解と適度な承認の提供
承認欲求が強い人と関係を築く上で、最も大切なのは「理解」です。彼女の行動を「わがまま」や「面倒くさい」と一蹴するのではなく、その背景にある不安や恐れを理解することが第一歩となります。
小さな承認を日常に取り入れる
「今日の髪型素敵だね」「この料理、本当に美味しいよ」「あなたの考え方は面白いね」—こうした小さな言葉をこまめにかけることで、パートナーの安心感は大きく変わります。特に、具体的な褒め言葉は効果的です。
「綺麗だね」より「そのブルーの服、あなたの目の色を引き立てているね」 「ありがとう」より「あなたが準備してくれたおかげで、スムーズに進んだよ」
こうした具体的な言葉は、「本当に見てくれている」「本当に評価してくれている」という実感につながります。
「当たり前」にしない姿勢
長い関係になると、お互いの存在が「当たり前」になりがちです。しかし、「当たり前」こそが承認欲求を刺激する大きな要因。「いつもありがとう」「あなたがいてくれて嬉しい」といった感謝の言葉を忘れないことが大切です。
「彼女が夕食を作ってくれるのは『当然』ではなく『ありがたいこと』だと思うようにしています。毎回『ありがとう』と言うのは照れくさいこともありますが、言葉にすることで彼女の表情が明るくなるのを見ると、やっぱり大切なことだと感じます」とあるパートナーは語ります。
境界線の設定と誠実なコミュニケーション
一方で、パートナーの要求が度を超えている場合は、適切な境界線を設けることも重要です。「すべての要求に応える」ことは、長期的には関係を疲弊させてしまいます。
「私はできることとできないことを正直に伝えるようにしています。『今日は疲れているから、深い会話は明日にしたい』とか『SNSでの投稿は私のスタイルではないけど、二人の時間は大切にしたい』とか。最初は反発されることもありましたが、誠実に伝え続けることで少しずつ理解してもらえました」
この境界線の設定は「愛情の欠如」ではなく、「健全な関係のための必要条件」であることを、言葉と行動で示していくことが大切です。
承認欲求が強い本人ができること:自己肯定感を内側から育てる
承認欲求の強さに悩む女性自身も、いくつかのステップで状況を改善することができます。
「承認」と「自己価値」の分離を意識する
まず大切なのは、「承認されないこと=価値がないこと」ではないと理解すること。誰かに褒められなかったり、気づかれなかったりしても、あなたの価値は変わりません。
「以前の私は、彼氏が私の新しい服に気づかないと『私に興味がない』と思い込んでいました。でも今は『彼は服よりも私という人間に興味があるんだ』と考えられるようになりました。褒められなくても、私の価値は変わらないんです」
この「承認と価値の分離」を意識することで、他者の反応に一喜一憂する状態から少しずつ自由になれます。
自己対話の改善:内なる批判者を味方に変える
承認欲求が強い人の多くは、内側に厳しい「批判者」を抱えています。「まだ足りない」「もっと頑張らなければ」「このままでは愛されない」—そんな声が常に頭の中で響いているのです。
この内なる批判者との対話を変えることが、自己肯定感を育てる鍵となります。否定的な考えが浮かんだとき、それを書き出し、客観的に検証してみましょう。
「『彼が返信をくれないのは、私に興味がないからだ』と思ったとき、『本当にそうだろうか?他の可能性は?』と自問することにしています。『仕事が忙しいのかも』『電話の調子が悪いのかも』など、別の可能性を考えると、不安が和らぎます」
このように、自分の思考パターンに気づき、それを書き換える練習を続けることで、徐々に自己肯定感は育っていきます。
SNSと現実の区別:「見せる自分」と「本当の自分」
SNS時代に生きる私たちにとって、特に大切なのは「SNSの反応」と「現実の価値」を区別することです。
「インスタの投稿に『いいね』が少なくても、それは私の人間的価値とは関係ない。SNSは『見せる自分』であって、『本当の自分』ではないんだと意識するようになりました」
SNSでの承認に依存しすぎないよう、定期的に「デジタルデトックス」の時間を設けるのも効果的です。SNSから離れた時間に、リアルな人間関係や自分自身との対話を大切にすることで、バランスを取り戻すことができます。
自己成長のための小さな挑戦
自己肯定感を高めるには、「自分で自分を認める経験」を積み重ねることが大切です。他者からの評価に頼らず、自分自身で「よくやった」と思える小さな目標を設定し、それを達成していく過程で、内側からの自信が育っていきます。
「私は『一日一つ、自分のためだけにすること』を習慣にしています。誰かに見せるためではなく、誰かに褒められるためでもなく、純粋に自分が楽しいと思うこと。それが、少しずつ自分を大切にする気持ちにつながっているんです」